報告書 (2)
――外部被ばくのより正確な積算値の算定について――
2011年9月9日
債権者代理人 弁護士 柳原敏夫
目 次 | |
1、債権者らが通う小中学校の放射線量の積算値の算定方法の見直しの必要性 | |
2、より正確な積算値を推計するための方法 | |
3、3月12日〜5月25日まで、債権者らが通う小中学校の積算値 | |
4、3月12日〜8月31日まで、債権者らが通う小中学校の積算値 | |
5、終わりに |
1、債権者らが通う小中学校の放射線量の積算値の算定方法の見直しの必要性
申立書では、債権者らが通う小中学校の放射線量の積算値を算定するための基準点として「郡山市豊田町」を選び、同地点における《本年3月12日から5月25日までの75日間の放射線量の積算値は2.9ミリシーベルトであり(甲2。2頁地点番号89)》(18頁)というデータを使いました。しかし、「郡山市豊田町」の地点で空中線量の測定を開始したのは4月3日からであり(甲2。2頁「空中線量率測定開始日」参照)、最も空中線量の値が高かった3月の間は測定しておらず、その空白期間を埋めるために採用したやり方は、3月17日から測定開始日の前日(4月2日)までの積算値を「郡山市豊田町」から50km以上離れた「双葉郡浪江町赤宇木手七郎」(甲2の地点32)のデータから推計するというものでした(甲2.2頁注記【※2】参照)。その意味で、この積算値の推計は極めて粗いものであり、なおかつ空中線量が異常に上昇した3月15日(別紙1のグラフ参照)前後の値の扱いが不明であって(恐らく積算していない可能性が高い)、従って、改めて、より正確な積算値を推計する必要性が高いと言わざるを得ません。
2、より正確な積算値を推計するための方法
幸い、「郡山市豊田町」から東約1.133km足らずの「郡山合同庁舎」で、3月13日から空中線量の測定をしていましたので(別紙3の一覧表1頁)、この「郡山合同庁舎」を基準点として、その地点のデータに基づいて、3月12日から5月25日までの75日間の放射線量の積算値を算出すれば、より正確な積算値を求めることができます。
但し、「郡山合同庁舎」の測定方法には1つ、致命的な問題点がありました。それは3月14日10時から3月23日まで「郡山合同庁舎」の3階(屋外)で測定していたことです(別紙3の一覧表末頁末尾の注)。そのため、24日に、福島市など他の市町村の測定場所に合わせて、1階(=地上)の「東側入口付近」に移動して測定したら、16時で1.43→3.78(2・6倍強)、17時で1.40→3.91(2.8倍弱)と2倍以上に跳ね上がってしまいました(別紙1の「郡山合同庁舎」のグラフと別紙2の福島市「県北保健福祉事務所」〔以下、ここでは単に「福島市」と略称します〕のグラフ参照)。そこで、普段、地上で暮らしている債権者らの被ばく量を積算するためには、福島市のように最初から1階(=地上)で測定していたら得られるであろう積算値を推計する必要があります。
そのためには、「郡山合同庁舎」とほぼ同程度の放射線量で、なおかつ最初から地上で測定していた福島市の測定値を参考にする方法が有益かつ現実的です。
別紙3の一覧表によれば、「郡山合同庁舎」と福島市の測定値のちがいは、24日直後は福島市が0.5〜1μSv/hほど値が高いので、控え目に計算して、空中線量の値が急上昇した3月15日から24日までの間、「郡山合同庁舎」の値は福島市より1μSv/h低いものとして、3月15日から24日までの積算値を計算すると、次の表1のようになります。
日 |
福島市平均値 (小数第2位を四捨五入) |
「郡山合同庁舎」平均値 (福島市平均値から1を引く) |
時間 |
1日の積算値 (「郡山合同庁舎」平均値×時間) |
15 |
20.7μ Sv/h |
19.7 |
8 (*1) |
157.6 |
16 |
18.4 |
17.4 |
24 |
417.6 |
17 |
13.1 |
12.1 |
24 |
290.4 |
18 |
11.4 |
10.4 |
24 |
249.6 |
19 |
10.5 |
9.5 |
24 |
228 |
20 |
9.4 |
8.4 |
24 |
201.6 |
21 |
7.5 |
6.5 |
24 |
156 |
22 |
6.5 |
5.5 |
24 |
132 |
23 |
5.9 |
4.9 |
24 |
117.6 |
24 |
5 |
4 (*2) |
24 |
96 |
15〜24日までの積算値 |
2046.4 |
|||
(*1) 15日はPM4:00頃から放射線の数値が急上昇したので15日は8時間と計算 (*2) 実際も、24日PM4:00から1階で測定開始した値の平均は3.9μSv/hで、福島市の平均値から1μSv/hを引いた4μSv/hとほぼ一致。 |
ちなみに、3月15日から24日までの間、「郡山合同庁舎」の1階(=地上)の「東側入口付近」で測定したならば得られるであろう値を福島市の値から推計してグラフにしたのが別紙4の青線グラフです。この青線のグラフが、郡山合同庁舎1階で実際に測定が始まった3月24日の測定値となめらかにつながっていることがお分かりいただけると思います。
また、この青線グラフで黄色に塗った部分が、郡山合同庁舎の3階(屋上)で測定した場合と1階(=地上)の「東側入口付近」で測定した場合とで3月15〜24日で生じる積算値の誤差です。尤も、このグラフは、両者とも各日の「最大値」を取ったもので、「平均値」のグラフではないので、積算値としてやや粗いのですが、しかし、両者の誤差がどの程度のものかは両者の面積比で分かります。つまり、両者の誤差は3階で測定した積算値の1.8倍前後にもなります。
3、3月12日〜5月25日まで、債権者らが通う小中学校の積算値
(1)、3月15日〜24日の「郡山合同庁舎」の積算値
上記の表1の通り、2046.4μSvとなります。
(2)、3月25日〜5月25日の「郡山合同庁舎」の積算値別紙1の「郡山合同庁舎」のグラフによれば、この間、多少のバラツキはあるものの、基本的にはなだらかに減少しているので、この間の積算値は、近似的に台形の面積(*1)として求めることができます。つまり、3月25日の平均値を台形の上辺、5月25日の平均値を下辺、3月25日〜5月25日の総時間を高さと考え、その台形の面積を求めるのです。次の表2のデータから、積算値の式は次のようになります。
項目 |
データ |
3月25日の平均値 |
3.6μSv/h |
5月25日の平均値 |
1.4μSv/h |
3月25日〜5月25日の総時間 |
(7+30+25)×24=1488h |
(*1) 台形の面積の公式:(上辺+下辺)×高さ÷2 |
(3.6+1.4)×1488÷2=3720μSv
つまり、3月25日〜5月25日で3720μSvとなります。
(3)、集計
今、3月12〜13日の積算値は零と考えると、以上を集計すると、3月12日〜5月25日までの郡山合同庁舎1階の積算値は次のようになります。
2046.4+3720=5766.4μSv≒5.8mSv
(4)、1日のうち8時間屋外、16時間屋内にいた仮定による修正
但し、以上の積算値は1日24時間屋外にいたという仮定の値です。これに対し、申立書で使った、《「郡山市豊田町」における本年3月12日から5月25日までの75日間の放射線量の積算値》は、1日のうち8時間屋外、16時間屋内にいたという仮定に基づいて計算したものです(甲2.2頁注※1参照)。
そこで、以上の積算値も同様の仮定に従って計算すると、次のようになります。
@.一般に、24時間屋外にいたと仮定して得られた一定日数の積算値をAとすると、1日のうち8時間屋外、16時間屋内にいて、屋内の低減効果は0.6と仮定したとき、
屋外にいた時間の積算値=A×(屋外滞在時間)/24時
屋内にいた時間の積算値=A×(屋内滞在時間)/24時×低減定数
積算値は上の2つの値の合計だから、次の式で求まる。
(A×8/24)+(A×16/24×0.6)
=A×(8/24+16/24×0.6)
=A×11/15
A.Aに5.8mSvを代入すると、
5.8×11/15=4.25 mSv≒4.3mSv
(5)、小括
以上から、郡山合同庁舎1階の「東側入口付近」での値を積算すると、8時間屋外、16時間屋内にいたと仮定して、本年3月12日から5月25日までの積算値は、4.3mSvとなります。
郡山合同庁舎1階の「東側入口付近」の地点は「郡山市豊田町」から東約1.133km足らずの距離にありますから、債権者らが通う小中学校の積算値を算出する上で、これを「郡山市豊田町」と同様に、基準点とすることができます。
そこで、「郡山市豊田町」より精度の高い「郡山合同庁舎」の積算値に基づいて、債権者らの通う小中学校の3月12日から5月25日までの積算値を求めます。
その際、債権者らの通う小中学校の放射線量の値は「郡山合同庁舎」の値と比べて、同じではなく、控え目に小中学校の地上から1mの測定値と比較した時でも、「郡山合同庁舎」より1〜2.2倍高いことが分かります。
なぜなら、両者の本年4月5〜7日の測定値を比較してみたとき、以下の表3・表4の通り、地上から1mで測定した場合には約1〜2.2倍高く、地上から1cmで測定した場合には約1.3〜2.75倍高くなっているからです(その主たる理由は郡山合同庁舎1階の「東側入口付近」はアスファルトでの測定であるのに対し、小中学校は土の校庭での測定であることに由来するものと思われます)。
地点 |
4月5〜7日の平均値 |
郡山合同庁舎1階 |
2.0 |
出典:「県内7方部 環境放射能測定結果(23.4.1〜23.4.30)」
No |
学校名 |
測定日 |
地上から1m |
地上から1 cm |
( 略) |
郡山市立○○○小学校 |
4月5日 |
(略) |
(略) |
( 略) |
同 ○○○小学校 |
4月6日 |
(略) |
(略) |
( 略) |
同 ○○○小学校 |
4月6日 |
(略) |
(略) |
( 略) |
同 ○○○小学校 |
4月7日 |
(略) |
(略) |
( 略) |
同 ○○○小学校 |
4月7日 |
(略) |
(略) |
( 略) |
同 ○○○中学校 |
4月7日 |
(略) |
(略) |
( 略) |
同 ○○○中学校 |
4月7日 |
(略) |
(略) |
出典:甲4「環境放射線モニタリング結果(平成23年4月5日〜7日実施分)」
その結果、郡山合同庁舎1階の「東側入口付近」の値を元に債権者らの通う小中学校の積算値を算出すると、申立書に記載の《2.9mSvの最小で1.3倍、最大で2.3倍高い》(19頁3行目)ではなく、《4.3mSvの最小で1倍、最大で2.2倍高い》と訂正する必要があります。
具体的な値で言うと、4.3〜9.46mSvという値になります。
すなわち、債権者らは、外部被ばくだけで、なおかつ積算にあたって木造家屋内の低減係数を0.6とし不当に低い数値を導く計算方法によったとしても、事故直後から75日間だけで既に年間許容量(1mSv)の約4.3倍から9.5倍も被ばくしていることになります。
(6)、債務者からの反論
これに対し、債務者から、《債権者らが通う小中学校は、木造家屋ではなく、コンクリート等による複数階の校舎である、実際の低減効果は、より高いものになる》(準備書面(1)3頁(4)イ)とより具体的な形で反論が出されました。
もし、債務者が、このようにより具体的な形で反論されるのであれば、債権者も同様に、より具体的な形で再反論するほかありません。すなわち、
1、3月12日〜4月10日
債務者は新学期の当初の予定(4月6日)を4月11日に延期しました。その結果、3月12日〜4月10日の約1ヶ月の休みの間、大部分の児童生徒は木造家屋で過ごしたと考えて、屋内滞在時間(16時間)の低減効果は0.1であり、この間の積算値は0.9を掛けて修正する必要があり、次の表5のデータを用いて計算すると以下のようになります。
項目 |
データ |
3月25日の平均値 |
3.6μSv/h |
4月10日の平均値 |
1.9μSv/h |
3月25日〜4月10日の総時間 |
(7+10)×24=408h |
(*1) 台形の面積の公式:(上辺+下辺)×高さ÷2
3月15日〜4月10日の積算値をAとすると、
A=(3月15日〜24日の積算値)+(3月25日〜4月10日の積算値)
屋外にいた時間の積算値=A×(屋外滞在時間)/24時
屋内にいた時間の積算値=A×(屋内滞在時間)/24時×低減定数
積算値は上の2つの値の合計だから、次の式で求まる。
(A×8/24)+(A×16/24×0.9)
=A×(8/24+16/24×0.9)
={(3月15日〜24日の積算値)+(3月25日〜4月10日の積算値)}×(8/24+16/24×0.9)
={2046.4+(3.6+1.9)×408÷2}×14/15
=3168.4×14/15
≒2957μSv≒3mSv
これに対し、修正前の、木造家屋内の低減係数を0.6として計算した場合、
3168.4×(8/24+16/24×0.9)
=3168.4×11/15≒2323μSv≒2.3mSv
修正前と後との差は、3mSv−2.3mSv=0.7mSv
すなわち、原発事故直後より新学期開始までの期間を具体的に吟味した場合、この期間だけで、0.7mSvプラスに修正する必要があります。
イ、4月11日〜5月25日
この45日間中で債権者らが学校に通った日数は33日(4月が14日、5月が19日)で、そのうち1日8時間を学校滞在時間とし、しかもその間は全て屋内滞在として、かつ学校が全て大きなコンクリート建物として、なおかつすべての児童生徒がずっと教室の扉及び窓から離れて中央に固まっていたと仮定して、その場合の低減効果は0.8とされているので、0.2を掛けて修正すると、次の表6のデータから、学校滞在中の積算値の式と答えは以下のようになります。
項目 |
データ |
4月11日の平均値 |
1.9μSv/h |
5月25日の平均値 |
1.4μSv/h |
33日間の総時間 |
33×24=792h |
(*1) 台形の面積の公式:(上辺+下辺)×高さ÷2
(4月11日〜5月25日の積算値)×(屋内滞在時間)/24時×低減定数
={(1.9+1.4)×792÷2}×8/24×0.2
=1306.8×1/15
=87.12μSv≒0.09mSv
これに対し、修正前の、木造家屋内の低減係数を0.6として計算した場合、学校滞在中の積算値の式と答えは次のようになります。
{(1.9+1.4)×792÷2}×8/24×0.6
=261.36μSv≒0.26mSv
すなわち、債務者の主張に従って、学校滞在中低減効果を0.8と修正したとしても、学校滞在中で低減効果の値は、0.26−0.07=0.19 mSvにすぎません。これに対し、自宅待機と春休み中の4月10日までの間で、より具体的に計算し直した結果、その増加分は0.7mSvにものぼります。両者の値を合算すれば、全体として0.53mSvプラスに修正する結果になるだけです。
以上から、債務者が主張する学校校舎内での低減効果なるものが、現実にはいかに微々たるものであるかを、正しく認識し直すべきです。
4、3月12日〜8月31日まで、債権者らが通う小中学校の積算値
では、現時点で、具体的には先月末までに、債務者らが通う小中学校の積算値はどの程度になるでしょうか。
これも上記3と同様の方法で求めることができます。郡山合同庁舎の1階(=地上)の「東側入口付近」を基準点として、同地点で測定した値について以下の積算を求めます。
(1)、3月15日〜24日
上記の表1の通り、2046.4μSvとなります。
(2)、3月25日〜8月31日
ここでも、近似的に台形の面積として求めることができます。つまり、3月25日の平均値を台形の上辺、8月31日の平均値を下辺、3月25日〜8月31日の総時間を高さと考え、その台形の面積を求めるのです。次の表7のデータから、積算値の式は以下のようになります。
項目 |
データ |
3月25日の平均値 |
3.6μSv/h |
8月31日の平均値 |
0.9μSv/h |
3月25日〜8月31日の総時間 |
(7+30+31+30+31+31)×24=3840h |
(*1) 台形の面積の公式:(上辺+下辺)×高さ÷2
(3.6+0.9)×3840÷2=8640μSv
(3)、集計(3月15日〜8月31日)
3月15日〜24日分と3月25日〜8月31日分を合計すると、
2046.4+8640=10686μSv≒10.7mSv
(4)、1日のうち8時間屋外、16時間屋内にいた仮定による修正
4頁(4)@の修正の式「A×11/15」のAに、10.7mSvを代入すると、10.7×11/15=7.8mSv
(5)、小括
以上から、郡山合同庁舎1階の「東側入口付近」での値を積算すると、8時間屋外、16時間屋内にいたと仮定して、本年3月12日から8月末日までの積算値は、7.8mSvとなります。
そこで、「郡山市豊田町」より精度の高い「郡山合同庁舎」の積算値に基づいて、債権者らの通う小中学校の3月12日から8月末日までの積算値を求めます。
本書5頁で述べましたとおり、《債権者らの通う小中学校の放射線量の値は「郡山合同庁舎」の値と比べて、同じではなく、控え目に小中学校の地上から1mの測定値と比較した時でも、「郡山合同庁舎」より1〜2.2倍高い》ので、《7.8mSvの最小で1倍、最大で2.2倍高い》
すなわち、7.8〜17.16mSvという値になります。
すなわち、債権者らは、外部被ばくだけで、なおかつ積算にあたって木造家屋内の低減係数を0.6とし不当に低い数値を導く計算方法によったとしても、事故直後から8月末までに既に年間許容量(1mSv)の約8倍から17倍も被ばくしていることになります。
5、終わりに
以上の結論だけ再掲します。
(1)、3月12日〜5月25日まで、債権者らが通う小中学校の積算値
債権者らは、外部被ばくだけで、なおかつ積算にあたって木造家屋内の低減係数を0.6とし不当に低い数値を導く計算方法によったとしても、事故直後から75日間だけで既に年間許容量(1mSv)の約4.3倍から9.5倍も被ばくしている。
(2)、3月12日〜8月31日まで、債権者らが通う小中学校の積算値
債権者らは、外部被ばくだけで、なおかつ積算にあたって木造家屋内の低減係数を0.6とし不当に低い数値を導く計算方法によったとしても、事故直後から8月末までに既に年間許容量(1mSv)の約8倍から17倍も被ばくしている。
このデータが無言のうちに語るのは、外部被ばくの積算値を正しく評価しただけでも、低線量被ばくによる債権者らの健康障害の危険性は、一刻の猶予のならないほど差し迫った問題であるということです。そして、これを解決するために残された方法は、放射能の感受性が高い債権者らを避難させることしかないことは自明です。これは、いま人類に突きつけられている最も重要な課題なのです。
以 上